
絵画は、はるか昔の時代から存在している芸術作品の一つで、芸術家の思いや感情、美しさを具現化する手段として、時代の変遷とともに様々な形式や作風が生まれ、多くの人々からも愛されてきました。
今回は、その定義や歴史について、詳しくご紹介いたします。絵画の魅力について興味がある方は、ぜひご参考にしてください。
絵画の定義
絵画とは、キャンバスや紙といった支持材や場所の上に、顔料などを使用して物を描く表現作品のことです。具体的に、何を使って何を描いたら絵画に含まれる、といったような定義は存在せず、要は平面なものの上に表現したい絵が描かれていれば、それは立派な絵画だといえるのです。
また、絵画は描くテーマや技法などによって、様々なジャンルに分類されます。例えば、描くテーマとしての分類では人物画、宗教画、静物画などに分かれ、技法としての分類では油絵、水彩画などに分かれます。
絵画の歴史
前述のとおり、絵画ははるか昔から存在し、その歴史はかなり長いものになります。また、絵画の歴史というと、一般的には「西洋美術史」というヨーロッパの芸術作品の歴史を研究する学問分野のことを指します。
そこで、本記事では西洋美術史における絵画の歴史について、時代の変遷とともに各時代の特徴などをご紹介いたします。
古代の絵画
【先史美術の時代】
先史美術とは、人類がまだ文字を持たない時代(紀元前3000年よりも前の時代)に制作された美術作品のことです。この頃の絵画は、まだ紙やキャンバスの上に描かれることはなく、その多くは洞窟の壁などに描かれていました。この「洞窟壁画」と呼ばれるものが、絵画の始まりだといわれています。
ちなみに、現在記録されている、最古の絵画は、インドネシアで発見されたイノシシの狩りのシーンを描いた壁画です。この作品は、約4万5000年前に描かれたとされており、人類がはるか昔から絵に何か特別な意味を持たせていたことがうかがえます。
また、洞窟壁画は、当時の人々の生活や信仰を反映する目的や、祈りや儀式の一環として描かれていたと考えられています。
代表的な作品:ラスコー洞窟壁画(フランス)やアルタミラ洞窟壁画(スペイン)
【古代エジプト美術の時代】
古代エジプト美術とは、古代エジプト文明のもとで発展した美術様式です。
古代エジプト美術における絵画の最大の特徴は、約2500年の間、様式がほとんど変化しなかったという点にあります。古代エジプト美術の絵画では、人物の顔は横を向いているが、胴体は正面を向いており、さらにその下の両足は横を向いているという独特な描き方をされており、これが長い間ずっと変化せずに保たれていたのです。こういった点などから、古代エジプト美術はかなり保守的かつ伝統的な美術様式だとして知られています。
また、古代エジプト美術の時代に描かれるものは、古代エジプト神話の神々や宗教、王権などのテーマが多く、神秘的かつ抽象的なのが特徴です。
代表的な作品:古代エジプトのアメンヘテプ3世王墓壁画
【古代ローマ美術の時代】
古代ローマ美術は、古代ローマ帝国のもとで発展した美術様式です。古代ローマ帝国の歴史は約900年と長いものですが、このうち、絵画の歴史が残っているのは約200年と短い期間のみです。そのため、現存している作品もごくわずかになります。
古代ローマ美術における絵画の最大の特徴は、世界最古の絵画技法といわれる「エンカウスティック」が誕生したことにあります。これは、ハチの巣と顔料を混ぜて作った絵具で描く技法で、油絵のような艶と繊細なグラデーションが表現できるものでした。
中世の絵画
【初期キリスト教美術の時代】
2世紀頃~5世紀後半になると、初期キリスト教美術と呼ばれる美術様式が成立しました。この時代の絵画の特徴は、主にキリスト教をはじめとする宗教画が主なテーマとして描かれることが多かったことです。
キリスト教に関する絵画が多く描かれるようになった背景には、古代ローマ帝国統治下で行われたキリスト教への厳しい迫害があります。当時は、ローマ帝国皇帝が人々の絶対的君主であり、キリスト教を心の中心として進行するキリスト教信者は警戒される存在でした。
そのため、キリスト教信者たちは墓地などに祈りを捧げている人々の壁画を描き、礼拝を行っていたのです。また、それらの壁画は一目でキリスト教のものだとは分からないような作品が多かったことから、当時のキリスト教信者たちが隠れて信仰を続けていた様子がうかがえます。
その後、皇帝コンスタンティヌスの時代になり、キリスト教が公認されるようになると、次々とキリスト教の教会が建てられ、キリスト教に関する絵画も、その教会の壁などに多く描かれるようになったのです。また、この時代の頃から、ヨーロッパではキリスト教に関する宗教的な意味合いのある作品が主なテーマとして、長い間君臨するようになります。
代表的な作品:善き羊飼い(作者不明)
【ロマネスク美術の時代】
10世紀~12世紀ごろにかけて、ロマネスク美術という美術様式が成立しました。
この時代には、「フレスコ画」と呼ばれる技法の絵画が発明されます。フレスコ画以前の絵画作品は、「モザイク画」と呼ばれる、漆喰に大理石やガラスを埋め込んで作るモザイクアートのようなものが主流だったため、繊細な表現が乏しかったのですが、このフレスコ画は大理石やガラスを粉状にしたうえで水溶性の顔料を作り、漆喰の下地に描く技法のため、細かい部分の表現ができるようになりました。
このフレスコ画の登場により、絵画は繊細な表現ができる芸術品として進化したのです。
【初期ルネサンス美術、盛期ルネサンス美術の時代】
ルネサンス期の時代、絵画を含め芸術品は大きく発展を遂げました。ルネサンス期に成立した美術様式は、初期ルネサンス美術(14世紀~15世紀頃)と盛期ルネサンス美術(15世紀~16世紀)の2つに分けられています。
まず、初期ルネサンス美術の時代には、遠近法を用いたが画法が成立し、以前よりもリアリティーのある絵画を描けるようになりました。
代表的な作品:『聖三位一体』サンドロ・ボッティチェッリ
その後、盛期ルネサンス美術の時代に入ると、画家たちは解剖学などの学問に関心を持ち、学んだことによって、より自然な人体表現や作品の構図、色使いが表現できるようになり、この後に登場する近現代美術にも大きな影響を与えました。
また、盛期ルネサンス美術の時代には、キリスト教以外のものをテーマにした作品も多く生まれます。
この時代、ヨーロッパでは「ルネサンス」という、古代ギリシャ・古代ローマの世界の秩序を規範として、古典復興(古代の文化などを復興させようとする運動のこと)をスローガンとして掲げた運動が活発化しました。それまではキリスト教と教会が絶対的な存在であり、権力を持っていたことから、キリスト教に関連する作品が多く制作されていたのが、このルネサンスでの運動を通して、写実的で人間のリアルな肉体美や現実の世界などを描いた作品も制作されるようになりました。
従来の教会による支配への反発や社会の変化に伴って、人々が自由で人間らしい生き方を求めた社会背景が反映されているといわれています。
代表的な作品:『モナ・リザ』レオナルド・ダヴィンチ作、『アテナイの学堂』ラファエロ・サンティ作
【近代の絵画】
この頃に制作された芸術品は近代美術(モダンアート)と呼ばれており、過去の伝統的な美術様式から脱却しようとした思想や様式が作品に色濃く反映されているのが大きな特徴です。
この時代以前は、宗教画が多く制作されていましたが、近代以降はより自由なテーマで描かれることが多くなったのです。
また、クロード・モネやピエール=オーギュスト・ルノワールなどの印象派の画家が多く活躍したのもこの時代になります。
代表的な作品:『ひまわり』フィンセント・ファン・ゴッホ作、『印象・日の出』クロード・モネ作
【現代の絵画】
1970年代以降の芸術品は現代美術と呼ばれています。現代美術の大きな特徴は、近代美術の時代に培われた、印象派や抽象画などの多様なスタイルに加え、新しい表現技法が次々と生まれたことで、より個人の感性が重視された作品が多い点です。
固定概念にとらわれない表現方法や、政治や社会・時代背景などをテーマにした社会風刺的な作品も多く生まれるようになり、絵画の可能性が大きく広がりました。
代表的な作品:『かぼちゃ』草間彌生作、『赤い風船と少女』バンクシー作
まとめ
絵画とは、紙やキャンパスなどの平面上に、顔料を使用して物の形や姿を描き出した芸術作品のことを指します。絵画は描くテーマや技法によってさまざまなジャンルに分類され、代表的なものには宗教画、人物画、油絵、水彩画などがあります。
また、絵画の歴史を振り返ると、人々の生活や信仰、社会的背景などが色濃く反映されてきたことが分かります。古代の洞窟壁画から始まり、現代の絵画に至るまで、それぞれの時代や地域が持つ独自の美意識や技術が生み出した作品は、観るたびに様々な感情や気づきをもたらしてくれます。
本記事を通じて、絵画が持つ奥深い魅力により興味を持っていただき、その世界に触れるきっかけの一助となれば幸いです。