吉田博 『帆舩 夕』

1876年、福岡県久留米市に生まれた吉田博は、写実的でありながらノスタルジックな世界観を持つ洋画家・版画家です。

洋画家の吉田嘉三郎に才能を見込まれて養子となり、1899年にはデトロイト美術館で水彩画展を開催。その後も海外で個展を繰り返し、1906年に帰国しました。1920年からは浮世絵をはじめとする木版画の制作を開始し、海外での個展を通じて非常に高い評価を受けています。

吉田博の作品の中でも特に評価が高いのは、海や帆を張った船を描いた作品、そして日本の雪景を描いた作品です。
水面に映る船や太陽の描写は写実的でありながらノスタルジックな雰囲気を湛えており、その独自の世界観が多くの人々を魅了しています。また、木版画においては、作者自身が一貫して制作した「自摺」と、初めて摺られた木版を再利用して制作された「後摺」とで評価が分かれることがあります。

今回ご紹介する『帆船 夕』は、大正15年（1926年）に制作された木版画作品です。
瀬戸内海に浮かぶ帆船を夕暮れ時の情景とともに描いており、水面に映る船や夕日の繊細な描写が、ノスタルジックで美しい雰囲気を醸し出しています。
シートに目立ったシミや汚れがなく、額装も美しい状態であるため、こちらの評価とさせていただきました。