中村元風は1955年、石川県に生まれました。
1981年、金沢大学大学院理学研究科を修了し、その後2年間は中学校教員として理科を担当していました。
生物学を専攻として学ぶなかで、自らが見た姿を形にすることに自らが求める生命の姿があるとし、作陶の道へと進みました。焼き物はサイエンスであるとし、後述する釉薬の開発や、焼成温度にも徹底的にこだわり制作を行っています。
今回ご紹介する『希赤 赤富士』は、氏が26年もの歳月をかけて完成させた釉薬、“希赤”を用いて作られた陶額の作品となります。
希赤が作られるまで、赤色の釉薬は透明感や光沢が無く、濃い朱色が鮮やかさの限界とされていました。氏は自身の科学者としての経験を活かし、日夜赤色釉薬の研究を行いました。そして2011年、ついに光沢と厚み、鮮やかさを兼ね備えた釉薬の開発に成功しました。
この釉薬は3月10日に窯へと入れられ、実際に焼きあがったのは翌日3月11日で、同日に東日本大震災が発生します。氏はこれを受け、希望をもたらす赤となるようにとの願いを込めこの釉薬に“希赤”と名付けたのです。
この深紅の釉薬が用いられた雄大な赤富士は、天に向かってそびえ立ち、明るい希望を象徴するモチーフとして、氏によって多く制作されています。
今回の作品は保存状態もよく、箱等の付属品もそろっていたためこちらの評価額となりました。作品の状態によっては評価額が変動する場合もございますのでご了承ください。