東山魁夷 作『二つの月』

水面に移る鏡面世界。
その蠱惑的な虚像は時に、憂鬱が蔓延る現実から私たちを解放してくれるかのように思えます。

そうした水面などに影が逆さまに映る現象を”倒影”と呼びます。有名どころでいえば「ウユニ塩湖」が挙げられます。
そしてその”倒影”は、しばし絵画の世界でも描かれることがあります。

そこで今回ご紹介するお品物は、東山魁夷 作 リトグラフ『二つの月』になります。

東山魁夷はいわずと知れた近現代の日本画の巨匠であり、毎年どこかで回顧展が開かれているほど人気の作家です。また、長野県立美術館に併設され、本作『二つの月』の原画を所蔵している「東山魁夷館」や香川県にある「東山魁夷せとうち美術館」など、彼の作品は全国各地で鑑賞出来ます。

『二つの月』は空の月と水面に写りこむ月を描くことで静謐さを表しており、前述の倒影が手法として用いられています。

本作はオリジナル版画と復刻版画の両方が存在しており、本作はオリジナル版画となります。
習作として描かれた原画は1962年のものになり、制作当時東山は、写生旅行で北欧へと赴いていました。

同年に制作され、第五回新日展にも発表された『映象』という作品は、スウェーデンのノルディングローを同じ倒影で描いた、東山の代表的な作品となっています。

それ以前にも倒影を用いた作品はいくつかありましたが、その『映象』という作品以降、東山の扱う重要なモチーフの一つとして確立することとなりました。

そのため、この倒影で描かれた作品は人気が高く、高評価につながる場合がございます。
それに加え、今回はオリジナル版画ということもあり、上記の理由と合わせましてこちらの評価となっております。