東山魁夷といえば、日本画ファンであれば一度は耳にした事のある作家なのではないでしょうか。
彼が描く作品は主に風景画で、どこかで見たことのある懐かしさを感じる、何気ない風景や自然を題材にした作品を多く手掛けています。
今回はその東山魁夷の 新復刻画『黎明』をご紹介させて頂きます。
『黎明』とは夜明け、または明け方を意味する言葉です。
本作は早朝の富士を描いた作品であることがわかります。雲海に浮かぶように描かれた山頂部が神々しく朝日を浴びていますが、この絵を見て何かを思い浮かべる方はいませんでしょうか。
実はこの作品を手掛ける数年前、東山は中国を訪れていました。その時に彼は、桂林や黄山といった山水画で描かれているような奇峰をその目に焼き付け、実際にそれらを描いた作品を、その期間でいくつか発表しています。
そして今作は、その影響が色濃く反映された作品かと思われます。
水墨画に近い調子で色調は薄く、まるで中国の霧深い峰々のように、日本の象徴である富士山が仙境として描かれています。
東山はこのように、海外で影響を受け、それを日本の風景に取り入れた作品を描くことがありました。
日本の風景だが、どこかエキゾチックな雰囲気を感じる。そういった独特の作風が東山の特徴であり、作品から幻想性を感じさせられる理由かと思われます。
本作の原画は1980年に描かれており、こちらは新復刻画のリトグラフ作品となります。
新復刻画とは、夫人である東山すみさん監修のもとで制作が行われた東山魁夷のリトグラフ作品を総称し、こうした作家と関わりのある人物などから販売された版画作品を一般的にはエスタンプ(復刻版画)と呼びます。
それに対し作家本人が作成したものをオリジナル版画と呼び、こちらも版画を取り扱う際によく使われる言葉です。
東山の作品に限らず、版画がその二種類に分かれる作家は少なくありません。
また、エスタンプはオリジナル版画に比べ、査定評価がやや落ちてしまう場合がございます。しかし、希少性や題材の人気性から高評価に繋がることもありますので、一概に優劣をつけることは出来ません。
そして今回は新復刻画の中でも、人気のあるモチーフを描いた作品であるため、こちらの評価とさせていただきました。